A. 心理的ネグレクトとは、養育者からの心理的なケアが与えられない状態のことです。衣食住という身の回りのケアは与えられても、子供の体調が良いか悪いか、どのような遊びが好きか、どのような食べ物が好きか、どのような経験をしてどのような思いをしているか、今どのような気持ちでいるか、そのような子供の内面に一切関心が与えられず、気が付かれない状態を指します。
養育者自身が子供のことを見てあげられていないことに気が付いており、しかし自分の問題で精一杯で子供と向き合う時間が取れない、と気にしている場合は、心理的ネグレクトではありません。
心理的ネグレクトは、養育者自身が、子供に興味がないことを気にしていない状態を指します。
例えば、子供が親の前で転んで怪我をした時、通常親は、子供に駆け寄って心配したり、気を付けて歩きなさい、と叱ったりします。あるいは、注意して見ていなかった自分を反省するかも知れません。とにかく、子供が転んで、痛い思いをしただろう、という共感が生じます。共感が生じた後どのように反応するかは、親によってそれぞれです。
心理的ネグレクトをする親は、子供が転んで怪我をした事実は目に入りますが、痛かっただろう、という共感が生じません。ですから、見ているだけになったり、軽く笑っておしまいにしたり、全く別のことを考えていたり、ということになります。
この心理的ネグレクトがある場合、暴力暴言や身体的ネグレクトなど目に見える虐待に発展することもあります。共通するのは、子供の感情や痛みに対する共感が出来ない、ということです。
Q. 愛着とは何ですか?
A. 愛着とは、主な養育者と子供との間で結ばれる、根底的な絆のことです。愛着は、子供が2歳くらいまでの間に、主な養育者と「お腹すいたね」「眠くなっちゃったね」など、沢山気持ちを共有することで培われるものです。
例えば子供が「寒い」と感じた時に、養育者がその寒さを感じ取って、「寒くなっちゃったね。セーター着ようね。」とセーターを着させてあげることで、子供は自分の感覚を理解された安心感を知り、自分の気持ちは大切にしていいのだ、自分の不快感は解消していいのだと知ります。この養育者との経験を通して、世界は信頼していいものなのだという、世の中に対する根本的な安心感が培われます。
一方で、幼少期に養育者に理解された、気持ちが通じ大切にしてもらった経験が全くなければ、あるいは乏しければ、世界から自分は歓迎されていない、自分は大切にされない存在なのだということを学び、世界が大変怖いものになります。
Q. 愛着障害とは何ですか?
A. 精神科医の高橋和巳氏は、愛着障害を「養育者との間に愛着関係が成立しなかったこと」としています。これは、単に親が分かってくれなかった、意見が合わなかった、愛情が不足していた、ということではなく、親が、子どもの気持ちを理解する能力がもともと「なかった」ことを指します。
これは、通常はなかなか理解できません。なぜなら、親に子どもの気持ちを理解する能力が「もともとない」ということは、あまり起こりえないからです。子どもが寒そうな恰好をしていれば、親も、セーターを着せるか否かに関わらず、「寒そうだな」と気付くことはできます。子どもが転んで怪我をすれば、親は、慰めるか叱るかに関わらず、「痛そうだな」と感じることは出来ます。気持ちを理解する能力が「ない」とは、子どもが寒いだろう、痛いだろうことに、そもそも気付かないことを指します。
このように親の側に気持ちを理解する能力がもともと「ない」場合、子供は世の中を信頼できない、人との繋がりが持てず、信頼関係が怖い状態となります。ここでは、その心の在り方を愛着障害としています。